生命

東京にいる間は全然実感なんてなかった。
実家に戻っても、家にいる間は全然実感なかった。
葬儀場に行って控え室にいてもやっぱり実感なんて
わかなかったけど、
父親に呼ばれて、
「おばあちゃんの顔見たか?」
って聞かれて、
「ううん。」
って答えて、棺のところまで歩いて行った。
父がゆっくり顔に当たる部分の扉を開くと、
おばあちゃんの顔が見えて、
そこで初めてショックを感じた。
すごくショックだった。
静かに眠っているようにしか見えないのに、
棺に入っていた。
父が
「な。」
って一言言って、
「うん。」
って応えた瞬間に凄く涙が出てきた。
止まらなくて止まらなくて。
いつまでも控え室に戻ることが出来なくて。
21にもなるのに、涙を止めることは出来なくて。
顔を見て泣いて、
棺に花を入れるときに泣いて。
棺には従兄の持ってきた早慶戦のタオルを
一緒に入れた。僕は知らなかったが、
祖母は僕や従兄が早稲田に入ったことを
すごく喜んでいたらしい。それについてはまた後日。
僕たち孫の手で棺を霊柩車のところまで運び、
乗せるとき、その小さな重さにやっぱり涙が出た。
「もう手を離していいですよ」
って葬儀場の人に言われたけど、その箱を挟んでも
まだつながっていたかった。
久しぶりに人前で顔を崩した。
火葬場では処理とも言えるほどに事務的に事が行われたが、
さっきまでここにあったその姿がこの世から
無くなったということがショックだった。
骨はほとんど残ってなくて、
そのことが逆に一生懸命、生を全うしたように
感じられて、本当に凄く泣いた一日だったけど、
最後に笑おうと思った。
そうすることが一番いいと思った。
 
我が祖母、享年78歳。